ナイルの花嫁

――古代エジプト。ナザレの預言者、イエスの生誕より500余年遡る。

獰猛なワニ達が潜むナイル川のほとりで、花嫁衣装に身を包んだ娘が、今まさに、死との結婚を迫られていた。もはや逃げ道はない。

エジプトには、毎年1人、選び抜かれた美しい娘を生贄に捧げる儀式が存在した。
掟を破れば、その年、ナイル川は怒り、水の流れが絶たれると信じられていたのだ。

――また、時は流れ、西暦600年代。
生贄の儀式は尚も続いており、エジプトは残忍な武装国家に侵略され、人々は容赦なき迫害と圧制に苦しんでいた。

そんな中、夜闇に紛れ、顔を隠して生きる1人の少女がいた。

メアリーは密かに信じていた。
ナイル川は犠牲を欲してなどいないと。

帝国軍の怒号と足音がすぐそこまで迫っている。
次に選ばれるのは自分かもしれない。

『ナイルの花嫁』に――。